アブストラクトABSTRACT
なぜ
基礎科学が
必要か
村山 斉
日本は天然資源が乏しい国でありながらGDP世界第3位、強い産業を持っています。その理由は「知の力」「考える力」であり、それを支えてきたのは基礎科学です。歴史的に真のブレークスルー・イノベーションは、先の見えている研究ではなく、基礎研究から生まれています。このことを具体例を挙げて議論します。「未来への投資」として基礎科学をサポートしていくことが、日本の将来を作ります。
元素の進化、
合成と変換
櫻井博儀
日常生活のなかで目に映るすべてのものは、地上に存在する宇宙でつくられた元素によって形作られています。我々の世界を彩る元素はいかにして生まれ、また変わってゆくのか?人類は元素を自在につくり、変えることができるのか?宇宙で営まれる「錬金術」の謎に迫る基礎研究とそれを支える地上での「錬金術」を紹介し、基礎科学が持続発展可能な社会を実現するための基盤であることを議論します。
発展する
天文学の
現状と今後
常田佐久
大型電波望遠鏡「アルマ」と大型光学赤外線望遠鏡「すばる」の活躍が続いています。原始惑星系円盤と惑星形成現場の観測、最遠方銀河の記録を次々と更新し宇宙再電離期に迫る銀河の観測、続々と発見される有機分子、かつてない広さと解像度のダークマター3次元地図の構築、重力波源天体の観測など話題に事欠きません。天文学のすそ野は、基礎物理学・生命科学等関連分野へ広がっており、物理学、化学、生命科学の研究者との協力が重要となっています。また、これらの研究成果の創出や新たな観測装置の開発には、大学の研究者の貢献が大きく、大学共同利用や大型観測施設を基軸としたデュアルサポートシステムが上手く機能しています。この活況を反映して、日本発の天文学分野の論文数は増加しているだけでなく、自然科学14分野のうち唯一、論文数の増加が世界平均を上回っています。さらに、「アルマ」・「すばる」の性能を画期的に向上させる「アルマ2」、「すばる2」の検討、超大型望遠鏡TMT計画が国際協力により進んでいます。このようにわが国の学術と大学の研究現場に新たな発展と刺激をもたらしつつある天文学の現状と今後についてお話しします。
『多は異なり』と
スモールサイエンス
前野悦輝
ニュートリノ振動の観測、ヒッグス粒子の発見、重力波の観測等、予言に基づく狙いを定めたビッグサイエンスの最近の成功は見事といえます。基礎科学の発展にとってそれらと相補的に両輪を成すのが、主として研究室規模で行われるスモールサイエンスです。両者の違いはしばしば前者の要素還元論に対する後者の創発論で比較されます。電子の素粒子としての本質を解明できても、それが多数集まった場合に起こる超伝導現象を予言することは非常に困難でしょう。これは “More is different.(多は異なり)”と表現されます。本講演では、私共の最近の研究成果も例として、スモールサイエンスの魅力をお話しします。
日本の純粋科学を
支えたもの、
およびそれへの批判
岡本拓司
明治期から日本の科学者には自発的ともいえる純粋科学志向が見られ、戦前は国家の国際的地位に向けた意識もあいまってこれを支え続けました。素粒子論の隆盛を支えた文化はこの中で醸成されましたが、実験研究においても米国に次いでサイクロトロンを稼働させるなどの成果を見ています。戦後も純粋科学の伝統は科学者の中に引き継がれましたが、これをめぐる文化的・政治的状況は社会・国家の変遷に応じて変化し、また学生紛争などと連動して科学批判の動きも顕在化しました。素粒子物理学を中心にこの流れを辿ると、周辺に一貫した支持基盤があって純粋科学が進展したというよりは、状況に応じて科学者が支持を獲得するのに成功してきたことは明らかです。
基礎科学研究と
社会
中村幸司
科学研究における基礎科学の重要性は、論を待たないところと考えますが、その重要性に比べて研究費などの配分が小さいとの声があります。そうかもしれません。それでは、研究費の多くを国民から直接的・間接的に受けていることをどう考えるべきなのでしょうか。その国民負担の実態に比べて、果たして国民への説明は十分行われているのでしょうか。難解な基礎科学であればこそ社会に発信し、理解を得ることの必要性は大きくなります。今の想いの一端をお示ししたいと思います。
【終わりに】
基礎科学研究の
持続的発展に
むけて
梶田隆章